跳んで気になる恋の虫
「緊張するね。でも、これが終わればお祭りだーー!」
沙知が、柔軟体操をする私の背中を押しながら言った。
「うん、そうだね。でも私……」
「カレシ楽しみにしてるよーー!みんなも、これを頑張れば楽しみが待ってるよーー!」
沙知がいつもより元気に振る舞うのは、みんなの緊張を解すためだと知っている。
だから、私はその先を言うのをためらった。
大会が終わった後に、カレシのことは言えばいい。
今は、跳ぶことだけ考えよう。
勝負の瞬間が迫ってきていた。
私は、ウエアの中に忍ばせたミカンの葉っぱをそっと叩いて、グラウンドに歩き出す。
今日の空も、どこまでも真っ青で、嫌味なくらい爽やかだ。
手についたミカンの匂いが、私の心を落ち着かせてくれる。
『16番、飛島ナミ』
名前を呼ばれてスタート位置に着く。
練習では跳べなかった高さ。
ふうっと一つ息を吐き、バーを睨んだ。