跳んで気になる恋の虫
……えっ?
バーの向こうに見えるたくさんの観客の中に、虫屋の姿を見つけた。
それは、草や木と同化する虫を見つけるぐらいに難しいはずなのに、虫屋の姿だけがはっきり見える。
……来てくれたんだ。
湧き上がる熱いもので、体のエンジンが全開になる。
ピーッと笛が鳴った。
それと同時に、虫屋が両手をパッと開いた。
中からチョウが飛び出して、ふわっと高く舞い上がる。
私はそのチョウを追うようにして、力一杯踏み込んだ。
ミカンの香りのする風に乗って、ぐいっと体を伸ばす。
ドサッ
嫌味なくらい真っ青な空にかかる一本の橋は、微かに揺れながらそこにあった。
跳べた……。
跳べたんだ。
やった。
できた。
記録更新!
サイコーーーー!
私はすぐさま立ち上がり、虫屋を探した。
けれども、その姿を見つけることができなかった。