跳んで気になる恋の虫
……危なかった……。
ふうっと息を吐き、ぎゅっとつぶっていた目をそっと開くと、どこまでも続く夏の青い空に、ふわふわ楽しげに飛んでいる大きなチョウが見えた。
わあ……きれい……。
思わずそっと指を立て、空に向かって差し出すと、その大きなチョウは思わせぶりに近づいてくる。
いくら待っても私の指に止まることなく、チョウは空高く飛んでいった。
ああ、いっちゃった。
チョウの行方をマットに寝転んだまま目で追っていると、突然、聞いたことのない声で名前を呼ばれた。
「ナミ」
ドキン!
マットの上で体を起こすと、すぐ近くに同じクラスの「虫屋」の姿が見える。
なんで?どうして?虫屋が?
クラスで1番背が高くて、前髪は黒縁のメガネが隠れるほど長くて、全く整えていない髪にはいつも寝ぐせがついている。
その見た目と虫の本ばっかり読んでる虫オタクの桐谷(キリヤ)は、みんなから「虫屋」(ムシヤ)と呼ばれていて、全てが怪しすぎるという理由で、クラスの女子からはかなり敬遠されていた。
虫屋と関われば、必ず何か言われる。
だから私も、みんなに右へ倣えで、今日まで虫屋とはちゃんと喋ったことはない。
なのに、なんで虫屋が私の名前を?