跳んで気になる恋の虫
帰り道。
「ねえねえ、ナミはナミでも、私は人間だからね。大好きなのは砂糖水じゃなくて、抹茶アイス!」
「じゃ、手の上に抹茶アイスを乗せて、飛んでくるのを待ってますから」
「うん!」
すると虫屋が、心配げな目をして私に言った。
「あの……でも俺、抹茶アイスの他に何したらいいか分かんないんで、まずは一緒にナミアゲハを羽化させませんか?学校のミカンの木が切られてしまうかもしれないので、林の奥にあるミカンの木に蛹をこっそり移住させていたんです」
あ、だから今朝、ミカンの枝を持って神社にいたんだ。
「うん、もちろん。でもなんでミカンの木……?」
「ナミアゲハの幼虫は、柑橘類の葉しか食べてくれないんです」
「そうなんだ……虫のことはいっぱい知ってるんだね」
私は、わざと嫌味っぽく言いながら虫屋を見る。
「あ、飛島さんの好みについては、これからちゃんと勉強します」
「そこんとこも、よろしくお願いします」
見つめ合って笑う先に、チョウの羽化を2人で見つめる姿が見えた気がして嬉しくなった。
キミとの恋は、はじまったばかり。
私たちの周りでは、広い世界で出会うことのできた虫たちが、愛の歌を奏でていた。
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