跳んで気になる恋の虫
すごく気になる。
理由を聞いてみたいけれど、虫屋と話しているところを見られたら、面倒くさいことになるっていうのも分かる。
同じ班になっただけでも、ずっと言われるんだから、話をしたことが知れ渡ったらほんとに恐怖。
そんなの絶対に嫌だし、これ以上みんなに何か言われたり、後れをとったりするのは嫌。笑われるのはもっと嫌。
今はとにかく普通でいたい。みんなと同じでいい。
……そもそも私は、好きな人もいなかったし、高跳びを頑張りたかったから、私だけずっとカレシがいなかった。
ちゃんと理由があってカレシを作らなかったのに、みんなからカレシがいないのは悪いって言われるのがめちゃくちゃ苦痛で。
最初は、カレシを作らない理由をちゃんと話していたけれど、だんだんそれも面倒くさくなり、とにかくカレシの話題になるのも嫌になっていた。
結局、本当のことを話しても何も変わらない。
「みんな」とうまくやりたいなら、「私」より「みんな」を優先すればいいと思うようになった。
だから私は、カレシができたと嘘をついた。
唐突に言ったので一斉に疑われ、大会後のお祭りで、カレシを紹介することになってしまった。
もう、何をどうやっても悩みのタネは尽きない。
そのことを、たまたま隣にいたバイト先の大学生に愚痴ったら、俺がカレシになってやるよって言われて。
救われたって思った。
その人のことは良くわからなかったけど、とりあえず面倒くさいことから今すぐ解放されたくてつきあうことに決めた。
「つきあうんだから、ちゃんと彼女してよね」
「彼女……?」
「まずはこれから」
そのとき、ぎゅっと手を繋がれたけど、みんなの言うドキドキとかトキメキとか、それらしいものはなにもなかった。
あったのは明らかな違和感。