跳んで気になる恋の虫
「ナミ」
う……わっ……⁈
なんでこんなにドキッとするんだろう。
不思議な緊張感で、変な汗が出ててくる。
今は、誰も見ていない。
私はようやく言葉を発した。
「な、なによ」
「……」
……あれ?
そっちが呼ぶから返事をしているのに、虫屋は全く私を見ないで完全無視。
目は前髪とメガネで隠れているけれど、虫屋の視線が私に向けられていないことだけは、はっきりとわかる。
なんなの?
なんでこっちを見ないの?
虫屋は、疑問符だらけの私を置いてきぼりにして、また名前を呼んだ。
「ナミ」
「だ、だから、なに?」
やっぱり虫屋は、表情一つ変えずに私を無視。
しかも、一度も私の方を見ないまま、無言で通り過ぎていった。
ちょ、なんで人のこと呼んだくせに、一体どういうことなの?
ただでさえ、カレシのことでモヤモヤしてるのに、虫屋にまで無視されるなんて、シャレにもなんないし!
私は、蛇行しながら歩く虫屋の背中を追いかけた。
な、なんなの、この歩き方?
歩いたり止まったり、急に曲がったり、ぐるっと一回転したり、めちゃめちゃ怖すぎる……。
虫屋は、私に気づいているのかいないのか、そのまましばらく歩いて、花壇の前まで来るといきなりスッと屈んだ。
虫屋が屈んだことにより、私の前から大きな壁が無くなったので、風がふわりと頬をなでていく。