跳んで気になる恋の虫
わあ……すごい。
逃げないのはなんでだろう?
チョウが止まっている白い綿のようなものが濡れているのを肌で感じて、虫屋を見上げて聞いてみる。
「これは?」
ふわっと蜜柑色の風が吹いて、チョウの羽と虫屋の前髪を揺らした。
……ドキン。
黒縁メガネの奥に見える瞳が、想像と全く違っていてびっくりした。
チョウを見つめる虫屋の瞳がキラキラしてる。
すると虫屋が、私に視線を合わせて唐突に言った。
「ナミが好きなんです」
「へっ?」
い、いきなり好きだなんて、この人、何言ってんの?
「す、好き……?」
「はい。大好きなんです」
ちょっと待って。
いくらなんでもどうしてそうなる?
私と虫屋には、何の接点もなかったじゃない?
好きと言われることが、こんなに胸がドキドキするものだと初めて知った。
そこにちょうど電話が鳴った。
「あ、電話……」
私は虫屋にチョウを返すと、あわててポケットに手を突っ込んだ。