僕等の青色リグレット
それいしゃ……?
お茶を持って部屋に入ってきたところだった宮司さんが、「見たことないか?」と軽く微笑み、先祖の霊を祀っている神棚なんだと教えてくれた。
仏教でいうところの仏壇にあたるものらしい。
「ここには、晴登くんのお母さんも祀られているのですか?」
「そうやよ」
「あの、手を合わせてもいいですか?」
「祖霊舎は顔、手、口を水で清めてから礼をして、祝詞を詠むものなんやよ。後でやり方を教えるから、先に話とやらを聞こうかな」
「あ、はい」
ちゃぶ台を挟んで、向かい合わせに座る。
余程、険しい顔をしていたのだろうか、吹き出すように笑った宮司さんはお茶と一緒に用意してくれた水羊羹を食べるよう私に勧めた。
つるっと冷たくて甘い味が口の中に広がる。
「それで? 話というのは晴登のことかな?」
「はい」
「もしかしたら、この間の喧嘩を聴いていたかな」
「すみません、立ち聞きするつもりはなかったんですけど……あの、どうして宮司さんは晴登くんに跡を継がせたくないんですか?」
「うん、うまいな、浅井屋の羊羹は。もうちょっと食べるかい?」
「あ、いえ」
単刀直入過ぎただろうか、私の質問に答えようとしない宮司さんは台所へとまた行って羊羹を切っているようだ。
相当な甘党なんだろう。
よく見ると、茶箪笥のところに『甘いもの食べ過ぎ禁止』と書かれた紙が貼られていた。