僕等の青色リグレット
”彼”というのは、誰のことなんだろう。
それはもちろんおばぁちゃんの伴侶、私のおじぃちゃんであってほしいという気持ちがあるけど、別の人かもしれない。
もしそうだとしたら、おばぁちゃんの秘密を知ってしまったことになるのかな。
筆圧の強いその字を指でなぞった瞬間、何故だか海で助けてくれた彼のことが頭の中に浮かんだ。
お礼も言えないまま居なくなってしまったけど、その後、私のように熱を出したりしていないかな。出してないといいな。
あぁ、せめて名前を聞けばよかった。
借りたパーカーは、どうしたらいいだろう?
布団の中で考えを巡らせていると、
「芙――海――!」
窓の外から名前を呼ぶ声が聞こえた。
のそり這い上がって顔を出した私に手を振る人物がいる。優芽だ。
彼女は何故だか白い袴姿で背中に大きな弓のようなものを背負っており、小柄な体がより一層小さく見えた。
「芙海、そろそろ元気になったかー?」
「うんー、熱は下がった」
「そしたら、出ておいでよぉ、一緒に神楽の練習に行くで」
「神楽?」
「シャキとするけぇ、風邪なんかすぐに治るわ」
にっこりこぼれる白い歯と、ピースサイン。
興味を引かれた私は「すぐ行く」と答え、着替えに取り掛かった。