僕等の青色リグレット


晴登くんのお母さんが、晴登くんを産んですぐ亡くなったというのは聞いていたけど、仕事に対するプレッシャーから体を壊したとは。

産後鬱という言葉はたまに耳にするけど、そこに家業のことも加わるとなると、その大変さは計り知れない。


「晴登は冴子に似ていてな、祖先から代々伝わる霊感の強さも感受性の強さも母親譲りだ。いつか冴子のように自らの宿命に苦しむ日が来るかもしれない」

「でも、晴登くんは」

「分かっている。私の体を気遣っているのだろう? 私だって何も晴登が憎くて跡を継がせないと言っているわけやない」

「……はい」

「あいつは人に優しすぎる。自分に責任のないところでも、つい背負い込んでしまうところも冴子にそっくりや」


宮司さんが言っているのは、きっと風子ちゃんの事件のことだよね。

晴登くんは彼女を自分の手で助けられなかったことに責任を感じ、苦しんでいる。その姿が母親である冴子さんと重なったのだろうか。


「宮司というのはな、仕事がら島民から相談を受けることも多いんや。そのたびに自分のことのように苦しみもがく息子の姿は見たくない」


そう、だよね。

わが子に辛い思いをさせたくない気持ちは、どこの親だって思うことだよね。

でも、晴登くんの気持ちはどうだろう。

彼なりに一生懸命考え決めたことを、聞く耳持たずに反対されてさぞ傷ついただろう。

風子ちゃんのことと同じ、お互いがお互いのことを想い合ってのことなのに、どうしてこんなにこんがらがってしまうのかな。


「そのこと、晴登くんには話しました?」

「いや、この前の喧嘩からギスギスしていてな、私の顔を見るだけで怒り出す始末で話はしてないんや」


頑固なところは私に似てしまって、と宮司さんは後頭部を搔いた。


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