僕等の青色リグレット
それは、あくまで風子ちゃん自身が過去の事件と対峙したいと思っていたなら、の話だけど、可能性は充分あるはず。
自転車を漕ぐ足を止めて、こちらを振り向いていた晴登くんは「港町か」と呟いた。
「そうやな、もしかしたらそこに居るかも」
「行ってみる価値はあると思う、ここからどのくらいの距離?」
「そんなに遠くない! よし港町に行ってみよう、輝、いいな……って、あいつ先に行きやがった」
ほんとだ、いつの間に!
ついさっきまで横にいた輝くんの背中が随分と遠くにある。
その行動の速さに驚くとともに吹っ切れた様子の輝くんの姿に、私と晴登くんは目を合わせて頷き合った。
「俺たちも行こう」
「うん」
おばぁちゃん、私ね。
晴登くんのことが好きだけど、晴登くんを心の底から笑わせてあげられるのは、風子ちゃんだけだと思うんだ。
だから、輝くんには悪いけど、晴登くんと風子ちゃんが上手くいったらいいなぁーって、そう思う。
そりゃあ、ちょっとは悲しいと思うけど、いや結構辛いと思うけど。
好きな人の幸せを願うというのは、こういうことなんだね。
おばぁちゃんも、こんな思いをしたことある? 日記に書いてた「彼」とは、どうなったの? 胸が張り裂けそうなくらい痛い時はどうしたらいいの?
自転車の後ろで晴登くんの大きな背中に顔を寄せて熱い体温を感じていると、風の匂いが変わり波の音が聞こえた。
目の前に広がるのは、月夜を反射させる海。
そこで自転車を停めた晴登くんは、信じられないといった表情で「――居た」と息を漏らすように呟いた。