僕等の青色リグレット
「芙海、そろそろ」
その後もくしゃみを連発する優芽に笑っていると、先に車に乗っていたお母さんに声を掛けられた。船の時間が近づいているのだという。
「はぁい。じゃぁ、優芽、またね」
「またな」
そう優芽に手を振り、車に乗り込もうとした時だった。
「――――芙海!」
遠くから私の名前を呼びながら、こちらに向かって走ってくる人がいる。
その人はあっという間に私の目の前までやってきて、「何で黙って行こうとするんや」と恨めしそうな視線をこちらに向けた。
額から吹き出る汗を手で拭きながら、肩で息をする。
その姿を見て、ずきんと胸が音を立てた。
「……晴登くん」
「良かった、間に合って」
「どうして、分かったの?」
「それは、連絡を貰って、」
優芽の方を見る。
すると彼女は私から目を逸らして「いけね、姉ちゃんの病院に行く時間だ」と呟いて、家に戻って行った。嘘を付けない奴め。
出来ればこのまま会わずに、想い出だけを東京に持って帰ろうと思っていたのになぁ。なんて勝手すぎるのは分かっているよ。