僕等の青色リグレット
エピローグ
甲板に出ると、心地いい風が髪を揺らした。
目の前にはキラキラに輝く海、新緑の山、どこまでも広い空。
波の音、潮の匂い、海鳥の鳴き声が、懐かしい。
誘われるように手すりギリギリまで近づいて、直射日光の強さに目を細めた。
日焼け止めを塗りなおした方がいいかな? でも、これからは、気にしても意味ないかも。どうせ、すぐに真っ黒になってしまうだろう。
そんなことを考えて袖を捲ったシャツを脱ぎながら、ふと。
焼ける肌も気にせず走り回った5年前のことを、思い出した。
「勘違いだったんだよなぁ」
「何の話?」
ひとりごとのつもりで呟いた言葉に、返事が届いた。
いつに間にか同じように看板へ出てきていた晴登くんが、黒髪を無造作に掻き上げる。
「晴登くんが風子ちゃんを好きだと思ってたこと」
「あぁ、それか。俺としては、なんでそんな勘違いしたんだって思ったけど」
「輝くんがそう言ってたから、信じちゃったの」
「輝も勘違いしてたもんな、あいつはああ見えてナイーブやから」
「ふふ、だね」
「その日記、持ってきたんか」
晴登くんが、私の手元を指さした。
「うん」
「芙海の宝物やもんな」
おばぁちゃんの日記のことは、晴登くんだけに話した。
他の人だと信じて貰えそうにないことでも、彼は穏やかに話を聞いてくれて、「いいな」と言ってくれる。そんな彼が私は大好きだ。
「島に戻ったら忙しくなるで」
「まずは、神起祭の準備だね。優芽がぼやいてたよー、今年の生徒はちっとも練習しないって」
「あぁ、そうかあいつ。学校の先生になったんやな」
「そうだよ」