僕等の青色リグレット
あ、行っちゃった。
私がボケっとしているせいか、それとも優芽がせっかちなのか、風子ちゃんがいつ帰ってくるか聞く前に彼女は自分の家に入ってしまい、ほどなくして「やっぱり、カレーだ!」という元気な声が聞こえてくる。
うちは、和枝おばさんが作ってくれた魚の煮物だった。
島で獲れる魚も野菜も嫌いじゃない、むしろ好きなのに、隣から漂ってくるカレーの匂いに勝る料理なんてこの世に無いのではないかと思えるほど良い匂いがしている。
お陰でその夜はカレーの夢を見た。
和食しか食べないおばぁちゃんが悪戦苦闘しながらカレーを作り、その隣で私が慣れない手つきでお米を洗っている。
土鍋で炊いたご飯とカレーの相性は絶妙で、最高に美味しかった。
――のはずだか、あくまでそれは夢なので味までは確かじゃなかった。
♢
夜も明けきらぬうちから始まった蝉の鳴き声は、今や大合唱となり賑やかな朝を彩っている。今日も暑くなりそうだ。
早めに起きた私は朝食を済ませ出かける準備をしていると、庭にいた和枝おばさんに声を掛けられた。
「芙美ちゃん、神社に行くんやろ? これ持っていきんさい」
「これって、イチジク?」
「そう! ばぁちゃんが大事にしとったやつよ」
「今年も実がついたんだ」
おばぁちゃん家の庭には、たくさんの果樹が植えてある。
柿、キュウイ、ブルーベリー、みかん、ヒメリンゴ、イチジク、そのどれもが大切に育てられたもので、毎年送ってくれるのを楽しみにしていた。
少しトゲトゲがあるイチジクの実を鼻に近づけて匂いをかいでみる。すると、何とも青くさい匂いが鼻を通り抜け、思わず咽た。和枝おばさんが笑う。
「イチジクはお尻の皮がめくれた頃が食べごろだぁ、そいつはちょっと早いね」
「そうなの? 知らなかった」
「おばぁちゃんはいつもちゃんと食べ頃を見計らって、送ってやってたからねぇ。知らんで当然だ」