僕等の青色リグレット
「こんにちは。お邪魔しています」
「……」
「あの」
聞こえなかったのかな、返事がない。
白髪交じりの髪をしたこのおじさんは、三笠のおばさんの旦那さんで法事などで何度か会ったことがある。
けれど、今までに話をした記憶はなく、突然お邪魔した私を快く思ってないのかと気を揉んでいると、お盆を持った三笠のおばさんが部屋に入ってきた。
「この人、何にも喋らんでしょう? 気にしなくていいからねぇ」
三笠のおばさんは、苦笑しながらテーブルの上にグラスを置く。
夏らしい青色のグラスがカランと氷の音を立てた。
「カルピスで良かったかしら?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「何にもない家だけどぉ、ゆっくりしていってね。こんな若いお客さんは久しぶりやけぇ、嬉しいわ」
上品かつ綺麗な笑顔をつられて、私もニヘッと笑う。
この家には夫婦2人で住んでいるらしく近代的なものと言えば、小型の液晶テレビが1つあるだけで電源は付いていない。
聞こえてくるのはおじさんが新聞を捲る音と、蝉の声くらい。
三笠のおばさんは話し相手が出来たのがよほど嬉しいみたいで、学校のことや東京での暮らしなど、色んな質問を私に投げては楽しそうに聞いてくれた。