僕等の青色リグレット





「あっ」


暑さ凌ぎのために立ち寄った商店で、知った顔を見つけた私は思わず声に出してしまった。相手も同じように少し驚いた顔でこっちを見ている。三笠のおじさんだ。

ちょうどレジに向かうタイミングが同じだったおじさんは、無言のまま私の方へひょいっと手を伸ばした。

何かと思えば、私が持っていたアイスを一緒に買ってくれるらしい。


「ありがとうございます」

「……」

「あのぅ」

「……んだ」



え? 今、なんて言った?

聞き取れないくらい小さな声で、しかもモゴモゴ口を動かすおじさん。その表情は何を考えているのかさっぱり分からず、つまり全く意図が読めない。

じっと見つめていると、やがて観念したようにおじさんは息を吐いた。



「この前のお礼だ、家内の相手をしてくれて、そのぅ」


あぁ、また口篭もる。

昨晩、優芽が話してくれた情報によると、この三笠のおじさんは極端すぎるほどに口下手で普段からあまり人と喋ったりしないらしい。それは奥さんであるおばさんに対しても同じで、会話の全くない夫婦になっているんだとか。

というか、それが原因で昔大喧嘩をしたらしい。

それ以来ずっと冷戦状態で仲直りできず ”こじらせて” いるのだ。



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