僕等の青色リグレット
「今日は、神楽の練習なかったんだね」
「ああそぉや、皆にはメールしてんけど、芙海には忘れとったわ。ごめんな」
「ううん、私が勝手に来てるだけだから」
両手を大きく振って「気にしないで」と言うと、晴登くんはスッと目を細めて笑う。
神楽の練習の時とは違う白色の着物と浅葱色の袴を履いている彼は、お努めがあったようで香のような匂いがした。
外は汗ばむくらいの気温で暑いのに、着物を着ている時の彼はいつも涼しで凛とした花のように綺麗。
「あの、聞いてもいい?」
「ん」
本殿の裏側、大きなクスノキのある方へ移動した私たちは、石段に並んで腰を掛けた。
「さっきのは……あ、言いたくないならいいよ。でも、私に話せることだったら話して欲しいなって。ほら、いつも聞いて貰ってばっかりだし、たまには、頼りになれたらなって」
「ふふっ、ありがとうな。進路のことでちょっとな」
「進路?」
「うん、俺はこのまま島に残って神社を継ぐつもりなんやけど、父さんは大学に行って欲しいみたいでな」
そういえば、この前、宮司さんに「東京には大学がたくさんあるのか」とか「志望校を決めるのは今頃からか」といったことを聞かれたっけ。
あれは晴登くんの話をしていたんだね。