我喜歡你〜君が好き〜
「…在为什么变成这样之前没注意到(なぜそんな事になるまで気がつかなかった)?」
成田空港の正面入り口から滑るように走り出した高級社用車の中の温度が一気に5度下がった。
オーダーメイドの三つ揃いのスーツに身を包んだ、美しい顔の男が怒りと苛立ちを隠す事なく、重苦しいため息とともに足を組み替える。
「工作的不出现的人类没有必要(仕事の出来ない人間は必要ない)。」
吐き捨てるように言って電話を切り、楊家豪(ヤン・ジャーハオ)は頭痛を訴えるこめかみを揉み解しながら助手席にいる秘書に視線を向けた。
「本社の人間はどうしてこんなにも使えない奴らばかりなのか?いっそ、全員解雇してはどうだろうか?」
流暢な日本語で話しかけると、秘書の李志明(リー・チューミン)は膝に広げていたノートパソコンから視線をあげて軽く後ろを振り返る。
「前社長の経営陣が人選した人間ですから、しごとができるうんぬんよりも、家柄やコネで入社した奴らが多いのだと思います。」
チューミンはそれだけ言ってまた視線をパソコンに戻す。機嫌の悪い時の上司には極力関わらないのが身のためだと、過去の経験が物語っている。
台湾の潰れかかった大企業を最安値で叩き買い。1人で持ち直し、黒字転換させ、ここ三年続けて業績をうなぎ上りにしたジャーハオは業界で有名な敏腕だ。
しかし、仕事の出来ない人間は容赦なく切り捨てる。自分が望んだ結果を出せない人間は必要ない。と社員達を震え上がらせている冷血鬼社長だった。
事業の発展を見込んで、日本に支社を作って一年。
ほとんど休みなしで働き続け、日本で生活しているジャーハオにとって、自分が不在だからとすぐに怠けようとする本社の首脳陣達は即刻排除すべき害虫だと秘書に愚痴をこぼす。
チューミンは上司の言葉を黙って聞き入れ、そのまま本社に首脳陣の退任議題をメールした。
退任を迫らせる首脳陣を少し哀れだと感じるがジャーハオの言う通り、仕事をおろそかにしたのが悪いのだ。ジャーハオは仕事が出来ない人間には容赦ないが、できる人間は学歴や家柄やに関係なくどんどん出世させる。
それをわかっていて、仕事をおろそかにするのは、やはり自業自得だと、先ほど感じた哀れみを瞬殺した。
「来週のチャリティーパーティですが出席はいかがなさいますか?主催者側からは是非にとお声を頂いてますが…。」
びっちりと詰まったジャーハオのスケジュールを見ながらチューミンが言うと、重苦しいため息が返ってきた。
ジャーハオは台湾生まれの台湾育ちである。一般家庭で育ち、努力して名門大学に入学し首席で卒業してキャリアをスタートさせた。若くして様々な業績あげ、独立してからの目覚ましい活躍。
華々しいキャリアと生まれつきの美貌。
そんな、極上のいい男を周りの女どもが放って置くわけもなく…彼は良くも悪くも様々な経験を強いられた。そのせいで、若い頃から女性に対する不信感がしっかりと根付いている。
そのため、言い寄ってくる女は完膚無きまでに叩きのめし、その非情さと女への異常な嫌悪から、密かに同性愛者と噂されるほどだった。
「パートナー同伴が必須ならば出席はしない。」
「社長…同伴の女性なら私の方で後腐れのないものを用意できますが?」
「要らん。女などと一緒にいて何が楽しいんだ。くさい香水を振りまいて、望んでもないのに体を寄せてシナを作り、あわよくばベッドに誘い出して既成事実を作ろうとしている欲の塊じゃないか。そんな女など、抱く気にもなれない。
…そもそも、女の抱き方などすでに忘れてしまった。」
車窓に視線を向けたジャーハオが嘆息をこぼす。
「それは本当に勘弁してください。日々の生活が仕事一色で塗りつぶされて、何の楽しみもないまま孤独死なんて周りの人間は笑えませんよ。女を作れとは言いませんが、少し息抜きもしてください。」
「…息抜きか…。たまには日本観光でもしてみるか?」
「ええ、是非お願いします。ついでに日本人女性でも引っ掛けてみては?日本人なら社長のことは知らないはずだし、観光客を装って一夜のアバンチュールでも楽しめばいいんですよ。」
そうしたら、その慢性的な偏頭痛も解消せれるし、ストレスが貯まる度に鬼のように仕事を言い渡されることも減るはずだ。
本音を胸に秘めながらチューミンはスケジュール表の中にわずかな時間を見つけ出す。
「あさっての18時以降は奇跡的に予定がないので試してみてもいいのでは?」
「…お前はそんなに私に仕事をさせたくないのか?」
「人間ときには休息もひつようです。」
それ以上話さなくなった秘書に一瞥をくれてやってから再び視線を車窓にもどした。遠くに見える高層ビル群は青空のもと少し霞んでいた。
成田空港の正面入り口から滑るように走り出した高級社用車の中の温度が一気に5度下がった。
オーダーメイドの三つ揃いのスーツに身を包んだ、美しい顔の男が怒りと苛立ちを隠す事なく、重苦しいため息とともに足を組み替える。
「工作的不出现的人类没有必要(仕事の出来ない人間は必要ない)。」
吐き捨てるように言って電話を切り、楊家豪(ヤン・ジャーハオ)は頭痛を訴えるこめかみを揉み解しながら助手席にいる秘書に視線を向けた。
「本社の人間はどうしてこんなにも使えない奴らばかりなのか?いっそ、全員解雇してはどうだろうか?」
流暢な日本語で話しかけると、秘書の李志明(リー・チューミン)は膝に広げていたノートパソコンから視線をあげて軽く後ろを振り返る。
「前社長の経営陣が人選した人間ですから、しごとができるうんぬんよりも、家柄やコネで入社した奴らが多いのだと思います。」
チューミンはそれだけ言ってまた視線をパソコンに戻す。機嫌の悪い時の上司には極力関わらないのが身のためだと、過去の経験が物語っている。
台湾の潰れかかった大企業を最安値で叩き買い。1人で持ち直し、黒字転換させ、ここ三年続けて業績をうなぎ上りにしたジャーハオは業界で有名な敏腕だ。
しかし、仕事の出来ない人間は容赦なく切り捨てる。自分が望んだ結果を出せない人間は必要ない。と社員達を震え上がらせている冷血鬼社長だった。
事業の発展を見込んで、日本に支社を作って一年。
ほとんど休みなしで働き続け、日本で生活しているジャーハオにとって、自分が不在だからとすぐに怠けようとする本社の首脳陣達は即刻排除すべき害虫だと秘書に愚痴をこぼす。
チューミンは上司の言葉を黙って聞き入れ、そのまま本社に首脳陣の退任議題をメールした。
退任を迫らせる首脳陣を少し哀れだと感じるがジャーハオの言う通り、仕事をおろそかにしたのが悪いのだ。ジャーハオは仕事が出来ない人間には容赦ないが、できる人間は学歴や家柄やに関係なくどんどん出世させる。
それをわかっていて、仕事をおろそかにするのは、やはり自業自得だと、先ほど感じた哀れみを瞬殺した。
「来週のチャリティーパーティですが出席はいかがなさいますか?主催者側からは是非にとお声を頂いてますが…。」
びっちりと詰まったジャーハオのスケジュールを見ながらチューミンが言うと、重苦しいため息が返ってきた。
ジャーハオは台湾生まれの台湾育ちである。一般家庭で育ち、努力して名門大学に入学し首席で卒業してキャリアをスタートさせた。若くして様々な業績あげ、独立してからの目覚ましい活躍。
華々しいキャリアと生まれつきの美貌。
そんな、極上のいい男を周りの女どもが放って置くわけもなく…彼は良くも悪くも様々な経験を強いられた。そのせいで、若い頃から女性に対する不信感がしっかりと根付いている。
そのため、言い寄ってくる女は完膚無きまでに叩きのめし、その非情さと女への異常な嫌悪から、密かに同性愛者と噂されるほどだった。
「パートナー同伴が必須ならば出席はしない。」
「社長…同伴の女性なら私の方で後腐れのないものを用意できますが?」
「要らん。女などと一緒にいて何が楽しいんだ。くさい香水を振りまいて、望んでもないのに体を寄せてシナを作り、あわよくばベッドに誘い出して既成事実を作ろうとしている欲の塊じゃないか。そんな女など、抱く気にもなれない。
…そもそも、女の抱き方などすでに忘れてしまった。」
車窓に視線を向けたジャーハオが嘆息をこぼす。
「それは本当に勘弁してください。日々の生活が仕事一色で塗りつぶされて、何の楽しみもないまま孤独死なんて周りの人間は笑えませんよ。女を作れとは言いませんが、少し息抜きもしてください。」
「…息抜きか…。たまには日本観光でもしてみるか?」
「ええ、是非お願いします。ついでに日本人女性でも引っ掛けてみては?日本人なら社長のことは知らないはずだし、観光客を装って一夜のアバンチュールでも楽しめばいいんですよ。」
そうしたら、その慢性的な偏頭痛も解消せれるし、ストレスが貯まる度に鬼のように仕事を言い渡されることも減るはずだ。
本音を胸に秘めながらチューミンはスケジュール表の中にわずかな時間を見つけ出す。
「あさっての18時以降は奇跡的に予定がないので試してみてもいいのでは?」
「…お前はそんなに私に仕事をさせたくないのか?」
「人間ときには休息もひつようです。」
それ以上話さなくなった秘書に一瞥をくれてやってから再び視線を車窓にもどした。遠くに見える高層ビル群は青空のもと少し霞んでいた。