寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
◇ プロローグ


 強い日差しが川面を照らし、豊かな水の流れはキラキラ輝いている。
向こう岸が見えないほどの大きな川は、ランナケルドの暮らしに潤いを与え、農作物の実りに大きく影響している。

「暑い。そろそろ帽子をかぶらないと怒られちゃう」

 植物が力強く緑を見せる河川敷に寝ころびながら、セレナは大きく体を伸ばした。
 森で手に入れた果物を食べて満足し、心地よい眠気が彼女のまぶたを重くする。
 色とりどりのレースで飾られたドレスが土に汚れることにも構わず寝ころぶ姿は天使のようにかわいらしい。
 艶やかな金色の髪は手入れが行き届き、きめ細やかな肌からは育ちの良さがわかる。

「そろそろ帰らなきゃアメリアがデザートをくれないかも。……だけど、お城には戻りたくないな」

 セレナはよいしょっと呟きながら体を起こすと、足元に転がっていた靴を手に取った。

立ち上がり、靴と足元を交互に見ると、肩をすくめ靴を手にしたまま素足で歩きだした。
川沿いには柔らかな草が茂っていて、素足でも問題ない。
色とりどりの花を眺めながらゆっくりと歩いていると川面に反射する日差しが眩しくて、何度も手をかざす。

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