寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
そうだ、ハンカチに刺繍をするのにもたくさんの時間がかかったのに、このドレスを作ってくれた人はどれほどの時間をかけたんだろう。
セレナはドレスの汚れを慌てて払う。
けれど、布地についた汚れはなかなか落ちない。
土だけでなく、ぶどうジュースも染みも残っている。
「どうしよう……」
セレナは自分のドレスを見下ろし落ち込んだ。
どうやっても落ちそうにない。
「お水で濡らしたらキレイになるかな……えっと……」
助けを求めるように、セレナは男性に視線を向けるが、それ以上言葉が続けられない。
目の前の素敵な男性をどう呼べばいいのかわからないのだ。
舞踏会で紹介されたようだが、一刻も早くその場から逃げ出すことばかりを考えていたセレナの記憶には残っていないのだ。
すると、男性はセレナの頭を優しく撫でた。
「テオ。隣の国の王子様だ。ちゃんと覚えておけよ」
「テオ……」
その名前には聞き覚えがあった。
昨夜、クラリーチェととともに父から聞かされた名前だ。
テオ王子と、テオの兄であるカルロ王太子が晩餐会に来られるからちゃんと挨拶しなさいと言い聞かされたことを思い出した。
普段は優しい父が、国王の顔で念押しする姿に違和感を覚えたものの、眠くてたまらなかったセレナはそのことをすっかり忘れていたのだ。