寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない




「テオ王子がおっしゃっていたけど、市ではセレナの刺繍入りのハンカチやティーポットカバーとか、あっという間に売れるんでしょ? すごいじゃない」

 クラリーチェは、セレナの手からハンカチを取り、鮮やかな出来栄えのブルースターに目を細めた。

「これも本当にキレイね。糸の太さや色の微妙なグラデーションでこんなに立体的になるなんて、びっくりよ。私には無理無理」
「お姉様も、時間をかけてゆっくりとすればできるわよ」
「そうかなあ。まあ、いいの私は。旦那様のハンカチにそれなりに刺繍する程度にはできるし」

 クラリーチェは軽く笑い、肩をすくめた。
 何をするにしても体調が悪くなれば中断させられるクラリーチェには、刺繍も読書も、そして勉強も適度にできればそれでいいと言われて育ってきた。
 クラリーチェが大丈夫だと言っても、父と母は「無理をしないで」と言ってはベッドに連れていく。
 その結果、クラリーチェは何かをしたいと思っても、途中で諦めることを覚えてしまったのだ。
 一方のセレナは刺繍や料理、そして騎士団との訓練を通してあらゆることを身に着け、極めていった。
 クラリーチェは、着実に成長しキレイになっていくセレナを羨ましく思い、妬む事もあった。
 子供の頃は、クラリーチェの体調を気にするセレナに会いたくなくて、部屋に来てもベッドにもぐりこみ顔を見せない時もあった。
 誰が悪いわけでもないのに、卑屈な態度をとる自分が嫌いで仕方がなかった。
 そんな自分の未来は、ランナケルドを繁栄させ、領民たちが幸せに暮らせるように、名ばかりの女王として決められた人生を生きるだけだと、諦めていた。
 そして、どこかの国の王子が用意され、ランナケルドのためだけの結婚生活を送る。
 クラリーチェは、それが自分の運命であり、その中に幸せはないと思っていた。


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