寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない



 王女として生まれなければ、もっと幸せになれたかもしれないと泣いた夜もあったが、妹のセレナはいずれ他国に嫁がなければならないという現実を思えば、自分はまだ恵まれているのだと、揺れる心にどうにか折り合いをつけていた。
 そんなクラリーチェに変化があったのは、ミノワスター王国の第二王子、テオとの婚約が決まった時だ。
 同時に発表された、セレナとミノワスター王国の王太子であるカルロとの婚約。
 姉妹ふたりの運命が決められたと同時に動き出したのは、ふたつの国の将来をも左右する重大な計画だった。
 クラリーチェが計画を知らされたのは、婚約が発表されてから数日後のことだった。
 その前後一週間、国王夫妻はセレナを伴い周辺国に視察に出かけていて、クラリーチェはアメリアがいる離宮で過ごしていた。
 セレナだけでなくクラリーチェもアメリアが大好きで、彼女の作る料理なら、普段以上の量を食べられるほどだ。
 王も王妃も、クラリーチェが元気になるのならと、自分たちが留守の時には離宮で過ごすことを認めていた。
 離宮でゆったりと過ごしていたクラリーチェに、護衛を数人伴っただけのカルロとテオが突然現れ、思いがけない計画を聞かされた。
 その場にいたアメリアと、クラリーチェが誰よりも信頼している侍女のリリーにもその計画は聞かされ、もちろん口外厳禁だと何度も念を押された。
 クラリーチェとセレナのそれぞれの結婚に関する大きな計画
 その計画を成功させるためのクラリーチェの役割は大きく、彼女の心はその事だけでいっぱいになった。
 そして、それ以降、セレナを妬んだり、自分の体の弱さを嘆いている暇などなかった。
 当時をふと思い出し、クラリーチェは苦笑した。

「お姉様、どうかしたの?」

 セレナはブルースターの刺繍を見ながらぼんやりしているクラリーチェの顔を覗き込んだ。


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