寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
今更何を言っているのだろうか。
セレナは訳が分からずクラリーチェを見た。
すると、クラリーチェは意味ありげに笑い、セレナを落ち着けるように頷いた。
いつもなら体調の悪さを理由に滅多に自分の部屋から出ないクラリーチェがこの場にいるだけでも珍しいのに、やけに落ち着き、この状況になんの違和感も覚えていないような彼女の姿に、セレナは不安を覚える。
落ち着いているだけでなく、堂々としていて、口調もしっかりとしている。
普段のはかなげな彼女とはまるで違い、セレナの方が落ち着かない。
「クラリーチェはカルロ王太子と……それほど親しくしている姿を見たことはないが」
ジェラルド王の言葉に、クラリーチェは首を横に振った。
「カルロ王太子殿下は、寝込むことが多い私を心配して、体に良いと言われる食べ物や薬を何度も送ってくださいます。互いに国を率いていかねばならぬ立場にいるせいか、手紙のやりとりの中で互いを励ましあうことも何度かありました」
ミノワスターに長く伝わる健康に良いとされるお茶や、食欲がない時でも食べたくなるおいしい菓子など、カルロは何度もクラリーチェに贈っている。
それは互いに別々の相手との婚約が調ったと同じ頃から始まり、手紙のやりとりも何度も繰り返している。
外の世界を知らないクラリーチェにとって、カルロからの手紙はとても興味深く、いつも楽しみに待っているほどだ。
「お父様、最近王太子殿下からいただいた薬草を煎じたお薬が私の体に合ったようで、食欲も出てきたんです。まだまだ体力は十分だとは言えませんが、女王となる日に備えて頑張っているんです。……とはいっても、私に女王としての務めが果たせるのかどうか……」
クラリーチェは胸の前で両手を合わせ、不安げに唇をかみしめた。
けれど、その目にはジェラルドの反応をうかがうような光が揺れていて、カルロは何気なさを装いながらクラリーチェと視線を合わせた。
クラリーチェの言葉に笑みで答えながらも、その視線にはそれ以外の想いが見て取れる。
「クラリーチェの不安は、私もわかっていたんだ。国の定めだとはいえ、体の弱いクラリーチェが女王としてやっていけるのか、いつも悩んでいた」
ジェラルドは低い声でそう言って、肩を落とした。