寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「そこでだ。ここ一年ほど、ミノワスターのリナルド王と話を続けていたのだが」
ジェラルドはそこで言葉を区切り、ふたりの娘たちを順に見つめた。
いつもならはかなさを隠すことなく不安げな表情を浮かべるクラリーチェが、何故か今は落ち着き、しっかりとした口調でカルロに感謝の言葉を口にしている。
そして、セレナは部屋に入って以来テオの側で顔を赤らめ俯いている。
その姿は馬上で生き生きとした表情を浮かべているセレナとはまた違うかわいらしさが溢れていて、ジェラルドは目を細めた。
今更ながら、娘たちの成長をうれしく思い、それと同時にセレナを他国に嫁がせる寂しさを感じた。
小国ながらも豊かな国として知られるランナケルドの国王も、娘の事となれば強面の顔を崩し、瞳の奥を熱くするのだ。
「お父様?」
黙り込んだジェラルドに、クラリーチェが声をかけた。
「あ、ああ。そうだな、ちゃんと伝えておかなければならないな」
姿勢を正し、真面目な声と表情を作ったジェラルドの姿に、セレナは不安を覚えた。
いったい、何を伝えるというのだろうか。
「セレナ姫、こちらへ」
「え?」
隣に立つテオがセレナの腰に手を回し、ソファに座るよう促した。
その手の温かさに触れ、ほんの少し不安を小さくしたセレナは、テオと並んでソファに腰かけた。
思いがけない訪問だとはいえ、テオと会えればやはりうれしく、隣にいられるだけで心は弾む。