寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


「じゃ、テオはお姉様の……」

 セレナはポツリと呟いた。

 セレナの父である国王ジェラルドの言葉を思い出したのだ。

 ミノワスターのテオ王子がクラリーチェと結婚し、ランナケルドを率いていく。
 そしてセレナはランナケルドをミノワスターのカルロ王太子と結婚する。

 眠い目をこすりながら聞いた父の言葉を思い出し、セレナは胸に鋭い痛みを感じた。

 目の前に立つ燕尾服が似合っている王子様。

 薄い茶色の瞳がセレナをじっと見つめれば、彼女の鼓動はこれまで感じたことのないリズムを刻む。

 口から何かが飛び出しそうなほどドキドキしている。

「さ、一緒に帰るか。俺も退屈で逃げ出してきたんだ。一緒に叱られてやるよ」

 ははっと笑いながら、隣国の王子様テオは手にしたままのハンカチを、再び見る。

 ブルースターの刺繍が四隅にほどこされている。

 糸の処理も荒く、どの花も大きさが違い、子供が刺繍したとすぐにわかる出来栄えだ。

 テオはブルースターの花弁を指先でそっと撫でた。

「これは、俺がもらってやる」

「え?」

「まだまだへたくそだけど、仕方がない、俺がもらってやる」

 テオはハンカチを素早くたたむと、燕尾服のポケットにしまった。

「それ……セレナの……」

 セレナは驚き、どう言っていいのかわからず口をパクパクさせた。

 ハンカチが入っているポケットを不安げにじっと見つめるセレナに、テオは安心させるような笑顔を向けた。


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