寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
◇ 四章
 
セレナがミノワスター王国に嫁ぐ日がきた。
 早朝から王城の周辺はランナケルドのすべての領民たちが集まったのではないかと思えるほど、たくさんの人で溢れかえっていた。
 子供たちは人混みの最前列に並び、ワクワクしながら王城の門が開くのを待っているが、その中にはすでに涙を流し、しゃくりあげている子供もいる。
 施設でセレナとともに過ごしていた子供たちだ。
 何故隣国に嫁がなければならないのか、子供には理解できず、誰もがこの一週間、先生たちの言うことを聞かず困らせていた。
 先生たちも、子供たちと一緒に、愛すべき王女セレナの門出を祝おうと待っていた。
 城の周囲を埋める領民たちの警備にあたっている騎士団の面々も、大通りを抜ける馬車を待ちながら、寂しさをこらえていた。
 強い自分になれとばかりに騎士たちの鍛錬に交じって汗を流していたセレナ。
 騎士たちと張り合うわけでなく、ただ国のために強くありたいという思いだけで必死に剣を振り、馬に乗り、そして森を走り川で泳いでいた。
 その姿を近くで見ていたミケーレは、いよいよ迎えた今日、ひっそりと胸に抱えていたセレナへの恋心をきっぱり手放そうと決めている。
 ミケーレがミノワスターに行く機会はこれからもあるが、王太子妃、そしていずれは王妃として幸せに暮らすセレナの姿を安らかな気持ちで見られるよう、気持ちの区切りをつけるつもりなのだ。
 そして、これまで警護していたセレナに代わり、ミケーレはクラリーチェの警護を担当することになっている。
 三か月後に予定されているクラリーチェの結婚式。
 ミケーレたち警護にあたる騎士たちは、落ち着く間もなくその準備が始まる。
 その忙しさの中で、きっとセレナへの想いも昇華されるはずだ。
 この一週間雨が降り続き、心配していたが、人々の想いが通じたのか空は晴れ上がり、青空が広がった。
 そして、セレナの結婚を祝うように、夏の日差しが降り注いでいた。


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