寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「それでは行ってまいります」
セレナは王宮の玄関で振り返り、キレイなお辞儀をした。
ミノワスターに着けば、そのまま教会へと向かい結婚式が始まる予定だ。
セレナは国王夫妻とクラリーチェとともにミノワスターへ向かうのだが、その表情は明るく、滅多にしない化粧をほどこした顔は艶やかだ。
髪はキレイに結い上げられ、ミノワスター王国から届けられたティアラが輝いている。
このティアラはテオがデザインし急ぎで作らせたものだが、未来の王妃にふさわしく、いくつもの真珠が上品に収まっている。
そして、たくさんの宝石が散りばめられた純白のウェディングドレスはウェストから下が豊かに広がり、高価なレースが波打つたび、光に映えてまばゆいほどだ。
慣れないものばかりを身に着け、おまけに高さのあるヒールを履いたセレナは、不安定な足取りで使用人たちに挨拶を済ませ、そして、玄関に用意されていた馬車に乗り込んだ。
王家の祝い事のみに使われる白い馬車は、王家の紋章が輝いている。
六頭だての大きな馬車にはセレナと国王夫妻、そしてクラリーチェが乗り、ミノワスターに向かう。
「セレナ様、お体にはお気を付けくださいませ。そして、テオ王太子殿下とお幸せに。無茶ばかりしてこれ以上ケガをしないでくださいね。それと、刺繍や裁縫に夢中になりすぎて食事を忘れたり、徹夜をしたりしないように……あと」
馬車の傍に駆け寄ったアメリアが、セレナに声をかける。
その目には涙が浮かび、声は震えている。
セレナがテオと結婚することを喜びながらも、母親のようにセレナを育ててきたアメリアにとって、セレナとの別れは悲しくつらいものだ。
これからも会える機会はあるに違いないが、それでもやはり寂しく、セレナのことが気がかりでならない。
ミノワスターの国王夫妻にかわいがってもらえるのか、そして領民たちはセレナを受け入れてくれるだろうか。
アメリアの心に次から次へと不安が浮かぶ。
「やっぱりアメリアは心配性ね。昨夜お姉様と言っていた通りだわ。アメリアは最後の最後まで私の心配をするって思ってたのよ」
セレナは馬車の中から手を伸ばし、アメリアの手を取った。
「これからもアメリアのお料理を食べに戻ってもいいってテオ……王太子殿下が言ってくれたから、また来るわね」