寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「しばらく会えないけど、ここからミノワスターの王城は近いもの。何かあれば、早馬に乗ってすぐに来るから、泣かないで」
「セレナ様……。まだそんなことを言って。王太子妃となられるのですから早馬なんてやめてください。それに、騎士団の鍛錬に混じるより、国王陛下や王妃様とのお時間を優先してくださいませ。いいですね?」
「ふふ。それはなんとも言えないわね」
「セレナ様っ」
慌てるアメリアに、セレナは大きく笑った。
「冗談よ。冗談。陛下も妃殿下もお優しい方だし、今もかわいがってくださるから心配しないで」
アメリアを安心させるように、その手をぎゅっと握った。
アメリアの太く節くれだった指に、何度撫でてもらったことだろう。
両親が国王と王妃であることを差し引いても、セレナがふたりからの愛情を感じることは少なかった。
アメリアがいなければ、セレナが無条件に愛される幸せを感じることはなかったに違いない。
王城の中にひとりぼっちで放り出され、自分の存在に価値を見出すことができないまま大人になっていたはずだ。
「ほんとはアメリアをミノワスターに連れていきたいくらいよ」
セレナはアメリアの耳元に口を寄せ、小さく囁いた。
「セレナ様……」
とうとう、アメリアの目から涙がこぼれ落ちた。セレナは「あーあ」と苦笑する。
「だけど、もうすぐ孫も生まれるものね。体に気を付けて、家族仲良く暮らしてちょうだい」
「はい……はい。セレナ様にお子が生まれた時には、お手伝いに駆け付けます」
アメリアは涙を流しながら声を絞り出した。
「セレナ、そろそろ出発だぞ」
ジェラルドが、ふたりに声をかけた。
「領民たちも待ちかねているようだ、出発しよう」
「はい。お父様」
セレナは最後にアメリアの手を強く握りしめ、気持ちを切り替えるようにぱっと手を放した。
「じゃ、行ってきます。……元気でね」
セレナはアメリアに大きな笑顔を見せ、そして馬車から身を乗り出し、見送りのために玄関に並ぶ使用人たちに手を振った。
そして、白い外壁が眩しい城を見上げ、別れを告げた。