寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
楽しい思い出も、寂しい記憶も、城で経験した幾つもの事が、セレナを育ててくれた。
そして、今日、いよいよテオの妃となる。
セレナの向かいに座る国王と王妃は、セレナを愛しげに見守りながらも、溢れる寂しさを堪えていた。
この時になってようやく、セレナが自分たちよりもアメリアを大切に想っていることを実感したのだ。
体が弱いクラリーチェにかかりきりで、セレナの事はアメリアをはじめ離宮で働く者たちに任せきりだった。
いずれ女王となるクラリーチェのことばかりに気を取られ、同じく大切な娘であるセレナの心を傷つけていたに違いない。
馬車が動き出してもなおアメリアに手を振っているセレナは、両親の想いに気づくこともない。
「開城します」
大きな声が聞こえたかと思うと、ギーという音とともに、城門が開き、領民たちの歓声が広がった。
ゆっくりと馬車が進むにつれて、セレナを祝う声や、その華やかな姿に感嘆する吐息、そしてなによりセレナの幸せそうな様子に安心する声が響き渡った。
セレナの姿をひと目見ようと最前列で待っていた子供たちも、セレナに手を振り大声で祝いの言葉を叫ぶ。
セレナもそれに応え、馬車から身を乗り出し一生懸命手を振った。
「みんな、ありがとう。市の日には絶対に来るから」
力いっぱい手を振り、歓声に負けないくらいの大きな声で叫ぶ。
ミノワスターに続く道には、領民たちが延々と並び、セレナの結婚を心から喜んだ。そして、彼女の幸せを願った。