寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
セレナたちを乗せた馬車は順調に走り続け、ランナケルドとミノワスターの国境付近に差しかかった。
それまでたくさんの木々が緑眩しい枝を広げていたが、この辺りに来ると様子は一変する。
次第に木々の数が減り、道は舗装され整ってはいるが、潤いのない土地が続くのだ。
この辺りでは、潤沢な水の恩恵を十分に得ることはない。
ランナケルドが豊かな農業国として繁栄したのは、川の流れのおかげだ。
決して大きいとは言えない国土を満たす水のおかげで、人々は農業以外にも酪農を発展させ、小高い丘の上には果樹園を広げてきた。
川で魚を釣り、小麦の収穫もあるとなれば、ミノワスターの食糧事情は明るく、領民たちは穏やかに過ごす事ができる。
一方、ミノワスターは、隣国だとはいえ大きな川が領内に流れていない事と、国土の多くが岩地であることが影響し、食糧事情は不安定だ。
唯一、ミノワスターの川に近い国境付近には田畑が多数あるが、そこで収穫できる作物で国内すべてをまかなうことはできない。
そんな理由から、ミノワスターは長い間、ランナケルドから食糧を調達し、領民たちの生活を支えてきた。
ランナケルドの農家たちは、自国に必要な食糧だけでなく、ミノワスターの食糧も生産しているのだ。
元来働き者である国民性のおかげか、ランナケルドの領民たちは、それを苦にする事も疑問に思う事もない。
そして、長い間大きな戦争のない平和な時間が続いているせいか、ランナケルドの領民は穏やかで優しい。
周辺国の商人たちが集まる交易の場として栄えている事もあり、諍いには縁のない、緩やかな時間が流れている。
そんな平和な時が長く続き、農業の発展のために人々の力を集中させているせいか、ランナケルドでは兵力が足りていない。
おまけにその必要性を感じていない事に危機感を抱いているのはミノワスターの国王リナルドだ。
ミノワスターの食糧倉庫とでもいうべきランナケルドを守るために、多くの騎士たちを派遣し治安を維持しているのだ。