寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
食糧と兵力。
互いに足りない部分を補い合いながら、両国は友好関係を保ち続けてきた。
そして、その関係を長く続けるに従い、両国のつながりは次第に強固なものとなった。
食糧と兵力の交換という条件など関係なく、自由に両国を行き来する機会が増え、互いを理解し親しくなっていったのだ。
それが百年以上も続けば、ランナケルドとミノワスターは王族だけでなく領民たちの仲も近づき、国の違いを超えて結婚するものも多い。
それは王族にも言えることで、協力関係を強固で永続的なものにするために、王族同士が結婚することが何度もあった。
本人の意思に関係なく国益につながる結婚が強いられる王族。
どうせ政略結婚しなければならないのならば、最も大きな国益につながる結婚をする方がいい。
今回のテオとセレナの結婚、そしてカルロとクラリーチェの結婚もそんな理由から決められたものだ。
けれど、今回のテオとセレナの結婚によって、両国の関係は大きく変わろうとしている。
「お父様もお母様も……お姉様のためならなんだってするのね」
馬車に揺られながら、セレナはぽつりと呟いた。
表情を消したその口調は、つい先ほどまで領民たちに手を振りながら精一杯の感謝の意を叫んでいた口から出たとは思えないほど悲しげだ。
たゆたゆと流れていた川に別れを告げ、ミノワスターの王城が遠くなった途端、セレナの心に現実が押し寄せてきたのだ。
約一年前、初恋の人であるテオとの結婚が突然決まり、信じられないほどの幸せを感じたのも束の間、どうしてカルロからテオに結婚相手が変わったのか、その理由を聞かされて落ち込んだ。
すべてはクラリーチェのためだった。