寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない



 女王としてランナケルドを守るには体力に不安があるクラリーチェのために、カルロを王配として迎えたいと、ジェラルドがミノワスターのリカルド王に申し入れたのだ。
 ランナケルドにたびたび訪れ、領民たちと良好な関係を築いていたテオに不満があったわけではないが、カルロに比べればまだまだ勉強不足の感は否めない。
 何年も悩んだ末、テオではなくカルロを王配として迎えたいと、頭を下げたのだ。
 もちろん、リカルド王が、ミノワスターの次期王として期待されているカルロをすんなりと手放すわけもなく、話し合いは難航したらしい。
 しかし、ジェラルドがひとつの案を提示した途端、事態は急展開を見せた。
 それは、クラリーチェとカルロの結婚を許してくれるのならば、ランナケルドを流れる川から一本の水路を作り、ミノワスターに水を流すというものだ。
 水不足に悩むミノワスターにとって、それは願ってもない申し出だった。
 長い歴史の中で、ランナケルドの王たちは何度もミノワスターに水を通すための水路を作らせてほしいとミノワスターの歴代の王から懇願されていたが、すべて断っていた。
 もしもミノワスターに水路を作り水不足が解消されればミノワスターの農業は発展し、ランナケルドから調達している食糧の割合が減ることになる。
 そうなれば、これまでミノワスターの食糧庫であったランナケルドを守る必要がなくなり、ランナケルドに常駐していたミノワスターの騎士たちが撤退してしまうかもしれない。
 それを恐れ、これまでのランナケルドの王たちは川の流れを変えたり、新しい水路を作らなかったのだ。
 しかし、クラリーチェとカルロが結婚できるのならばと、ジェラルド自らその事を提案した。
 リカルド王は、その提案を受けてかなり悩んだが、最終的には国民の生活のために承諾し、クラリーチェとカルロの結婚が決まったのだ。
 ジェラルドは両国の関係が変わるかもしれない事を承知のうえで、川の流れを変え、カルロを迎えようとしたのだ。
 すべてはクラリーチェのためだ。
 女王としてランナケルドをひとりで率いていくことが難しいに違いないクラリーチェに代わって、カルロにその責務を負わせようと考えたのだ。
 もちろん、王としてではなく、王配としてだ。
 そして、そこにセレナへの配慮は何もない。
 セレナが誰と結婚しようが関係ないという事だ。

セレナの結婚相手がカルロでもテオでも、どちらでも構わないのだろう。
< 117 / 284 >

この作品をシェア

pagetop