寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「いつか素晴らしい刺繍をしたハンカチを大切な男にあげるんだろ? ランナケルドの習慣だと聞いているぞ」
「うん……。アメリアがそう言ってた」
「じゃあ、セレナに大切な男ができたら、これ以上に心を込めて刺繍してやれ」
「う……ん」
大切な男、と言われても、まだまだ理解できる年ではない。
河原で走り回り、木登りをし、アメリアと一緒に料理をしたり刺繍に励んだり。
初恋もまだのセレナにはよくわからない。
けれど、大きな手でセレナの手をつかみ、ゆっくりと歩き出したテオの背中を見ながら、胸が温かくなるのを感じた。
これって、おかしいのかな、病気かな。
セレナの手を握りしめ、ときおり振り返りながら歩くテオの顔が、恥ずかしくて見れない。
だけど、いつまでも見ていたい。
そんな自分の感情に戸惑いながら、セレナは素足で歩いて行く。
日差しで温まった地面よりも、自分の頬のほうが熱いかもしれないと感じ、思わず俯いた。
「どうした? 疲れたのか?」
立ち止まったテオが、セレナを気づかい、顔を覗き込んだ。
目の前にあるテオの口もとに、セレナの緊張は一気に高まる。
後ずさった途端、体のバランスを崩してしまった。
つないだ手でセレナを支えると、テオは「ドレスって重いんだよな」と言いながらセレナの膝裏に手を差し入れた。
そして、そのまま軽々と抱き上げた。