寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない



 隣国の王配となるとが決まっているというのに、だからこそあと腐れなく付き合うにはちょうどいいという女性ばかりがテオに近づいてきたのだが、テオは愛想のよさを前面に出しつつも誰も相手にしなかった。
 結局、女性たちに辟易したテオは、ひとりの女性を伴って華やかな場に姿を現すようになったのだが、アリスというその女性ともなんの感情も関係もない。
 しかし、途切れる事なく現れる女性たちのせいで、テオの評判は芳しいものではない。
 セレナにもその噂は届いているはずで、結婚後まずしなければならないのは、誤解を解いて、自分の気持ちを素直に伝える事だとテオは気合を入れている。
 反対に、ミノワスターの王太子として立派にその役を果たしていたカルロには、頑なに女性を近づけようとしない空気が漂っていた。
 それはただ、クラリーチェへの想いをこじらせた初恋バカが大人になった結果だ。
 テオは肩を揺らしてくつくつと笑った。
 テオとカルロが初めて隣国の王女姉妹と会った時を思い出すたび、おかしくなるのだ。

「あの時の兄さんの顔……ひと目でクラリーチェに堕ちたってわかったよ」

 今は亡き前王妃の忘れ形見であるカルロは、騎士団長を経験した屈強な体と彫りの深い顔立ちで女性に人気があるが、生真面目な性格のおかげで女性との噂もないままセレナと婚約させれられる事になったのだが。
 クラリーチェのはかなげな姿に目は釘付けになり、言葉を失っていた。
 そう、あの時カルロはようやく初恋を経験したのだ。

「テオ殿下、馬車が国境を越え、騎士団が先導しているようです。もうすぐこちらに到着されますよ」

 思い出し笑いをしているテオに、女官長のラーラが耳打ちした。
 本来なら王太子にそんな砕けた態度は許されないのだが、テオが生まれた時から世話をしているラーラにとって、今でもテオは子供のままなのだ。
 国王夫妻よりもテオを理解しているといってもいいラーラのことを、テオも信頼し、大人になった今でも甘えている。

「あ、ラーラ。セレナが好きなクランベリーのジュースは用意してくれたか?」

 ふと思いだしたようにテオがラーラに問いかけた。

「大丈夫ですよ。セレナ様の大好物のクランベリージュースも、栗がたっぷり入ったシフォンケーキも用意しています」

 ラーラもセレナの嫁入りを心待ちにしていたのだ。
セレナの好物を、これでもかというほど用意している。



< 120 / 284 >

この作品をシェア

pagetop