寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない

 赤いじゅうたんが一面に敷かれた部屋には小さな窓がひとつあるだけだ。警備上、窓は少ないほうがいいということだが、この部屋に来るといつも閉じ込められているようでセレナは窮屈に感じる。
 広い部屋の奥にあるソファに、国王である父がセレナに背を向け腰かけていた。
 その隣には、セレナの母であるサーヤが座っている。
 肩を寄せ合い何かを話しているが、変わらず仲の良い姿を見せられて、セレナは肩をすくめた。
 ランナケルドの国王であるジェラルドと王妃のサーヤの仲睦まじさは有名で、国民の誰もがそれを誇りに思っている。
 国益に基づく政略結婚が多い中、ジェラルドとサーヤもその例にもれず、典型的な政略結婚ではあったが、互いをひと目見た途端恋に落ち、ふたりは幸せな結婚生活を送っている。
 結婚して二十年以上が経つが、国王が王妃を溺愛するさまは娘でも照れるほどだ。
 今もセレナが部屋に入ってきたことに気づかないのかひそひそと言葉を交わしている。
 そんなふたりの甘い世界を壊さないようゆっくりと近づくと、セレナの耳に自分の名前が聞こえてきた。
 
思わず足を止め、耳を澄ませた。

「セレナのように馬を乗り回す必要はないですが、クラリーチェがもう少し健康なら私たちも安心できるのに」
 
サーヤの震える声に、セレナは母が泣いているのかもしれないと感じ、息を詰めた。

< 18 / 284 >

この作品をシェア

pagetop