寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


「クラリーチェは子供の頃から無理ができないからな。大人になれば体力がついて元気になると言われていたが……。なかなかそうはいかないな」
 
ジェラルドの低い声にサーヤは頷き、顔をジェラルドの肩に埋めた。
 彼女の震える体を、ジェラルドがそっと抱き寄せる。
 人前ではいつも明るく笑い、心配事など何もないとでもいうように力強い言葉と態度で公務にあたる王。
 そして、王の後ろに控え、優しく穏やかな微笑みで国民を見守る王妃。
 誰もがふたりを敬い、忠誠を誓う。
 今朝も、月に一度の国民への挨拶をするために二階のバルコニーに立ち、その元気な姿を見せたばかりだ。

 けれど、ふたりきりになれば普通の親に戻り娘の事に心を痛めることも多い。

「もう少し暖かくなれば、クラリーチェも元気になるさ。子供の頃から冬は咳もひどかったし食欲が落ちていただろう?」
 
ジェラルドは、サーヤを励ますように彼女の背中を撫でた。
 彼の横顔も苦しそうで、クラリーチェのことを心配しているのがよくわかる。
 セレナはふたりの悲しみをひしひしと感じ、その場に立ち尽くしたまま何も言えずにいた。
 ふたりがクラリーチェのことを誰よりも愛し、彼女の体調をいつも気にかけていることは、セレナもよくわかっている。
 セレナは生まれた時から健康で、女の子にしておくのはもったいないと言われながら育ってきた。
 ランナケルドには、王子が王位を継がなければならないという法はない。
 もしも王子が生まれれば、それ以前に何人王女がいても王子が王位を継ぐが、王子がいない場合には、正妃との間に最初に生まれた王女が王位を継ぎ女王となる事が慣例となっている。
 側妃を持たない王にはクラリーチェとセレナのふたりの王女がいるが、王子はいない。
 したがって、次期女王としてランナケルドを率いるのはクラリーチェと決まっている。
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