寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない

 ランナケルドの象徴ともいえるこの川は、領土を縦断し、隣国との国境近くの海に注ぎ込んでいる。
 ゆったりとした流れを船で移動する時に感じる風の匂いがセレナは大好きだ。
 父である国王と母、そして姉のクラリーチェと別荘に行く時に船に乗れば、あまりにも楽しくてはしゃぎすぎ、怒られてしまう。

まだ十歳のセレナにとって、家族とともに過ごせる時間は極上で、どうしても落ち着くことができないのだ。

 ランナケルドは決して大国とはいえない小さな国だが、豊かな水資源によって農作物の収穫高はかなりのもので、周辺国から買い付けにくる人も多い。
 穀物類や野菜、川で釣り上げられた魚など、多くの食材を売る一方で、買い付けに集まった人たちを相手に商売をする人たちも多く訪れる。
 周辺諸国から多種多様の物資が集まり取引が行われる交易の場となっているのだ。

 領土の大きさも軍事力も、周辺国に太刀打ちできるものではなく、開戦となり攻め入られることにでもなれば、ひとたまりもない。
 だが、豊かな水資源に支えられた肥沃な国土と、真面目で実直な国民たちの働きのおかげでランナケルドには平和な時間が流れている。

その後押しをしているのが、ランナケルドの東側に位置する大国『ミノワスター王国』だ。
ランナケルドの十倍の広さを有する国土と強大な軍事力で周辺諸国を掌握している。


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