寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「クラリーチェがかなり弾けてると聞いたけど、大丈夫なのか?」
執務室で書類に目を通していたテオが、カルロに尋ねた。
ランナケルドに発つ日に備え引き継ぎを続けているが、これまでカルロが手掛けていた政務の量はかなり多く、テオはウンザリとした表情を隠さない。
この日の午後も、ふたりで執務室にこもっているが、机に積まれている書類に押印するだけでも一仕事だ。
「クラリーチェか? 先週ジェラルド国王に呼ばれて顔を見に行ったが、学校に通い始めていて驚いた」
「学校? 今更どうして」
テオの大きな声が部屋に響く。
「んー。これまで我慢していたことをひとつずつやっていくらしい」
「はあ? 学校になんて行かなくても城に教師を呼べばいいだろ。あの姫様の突拍子もない性格には慣れたと思っていたけど、びっくりだな」
テオは手にしていた王允を机に置き、くすくす笑った。
「学校だけじゃないぞ、離宮に頻繁に通ってアメリアに料理を教わってるし、指を血だらけにしながら刺繍も頑張ってたな」
カルロは目を細め、嬉しそうに呟く。
「俺に政務は任せて、自分は名前ばかりの女王に喜んで甘んじるらしい。今までセレナのように色々したくてもできなかった事に挑戦して、毎日を楽しく過ごすってさ」
「楽しくって……まあ、今まで部屋に閉じこもってばかりだったからわからなくもないけど」
病弱だと装うため、外出せず部屋に閉じこもっていたクラリーチェのストレスはかなりのものだっただろう。
かたや妹のセレナは王女という立場では考えられないほど活発に動き回っていた。
カルロと結婚するためだとはいえ、クラリーチェが諦めたもの、手放したものは多い。
ようやくカルロとの結婚が決まり、自由に出歩くことができ興味あるものに時間を費やす事ができるようになった今、弾けたとしても仕方がない。