寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


「だから、セレナの気持ちがわかるって?」
「そうだ。だが、実の両親と姉の絆の強さに怯えて居心地の悪い毎日を過ごしていたセレナの方が苦しかっただろうな。だけど、両親に遠慮しながら生きてきたという点は、似ているな」
「……まあ、そうだな」

 テオの投げやりにも聞こえる声に、カルロは肩をすくめた。

「俺の方がセレナの気持ちがわかるから怒ってるのか? 本当は誰よりも国の事を考えてせっせと働く真面目な大人なのに、セレナの事になると途端に子供になるよな」
「うるさい」

 テオは机の上に散らばっている書類や地図を急いで片付けた。

「今までセレナがどれほど寂しい想いをしてきたかなら何度もランナケルドに行っていた俺の方がよくわかってる。それに、今は俺がセレナの家族なんだ。絶対に寂しい想いはさせないし、幸せにする」
 
 ひと息でそう言うと、今日の仕事は終わりだと告げ、部屋を後にした。
 部屋に取り残されたカルロは、セレナを溺愛しているテオの姿を思い出し、しばらくクスクス笑っていた。

「単純だから、セレナの部屋にでも行ったんだろうな」

 カルロは窓辺に立ち、慣れ親しんだ風景を眺めた。
 向こう側に見える低い山を越えればすぐにランナケルドだ。
 あと少しで自分の妻となるクラリーチェを想う。
 今日も離宮で弾けているのだろうか。
 料理の腕はまだまだだが、ようやく外に出て自分の時間を過ごせるようになったのだ、料理だけでなく、色々楽しんで欲しい。
 クラリーチェを思い出せばすぐに会いたくなる。
 カルロが王太子として過ごした時間は、決して寂しいものではなかったが、王妃ロザリーがテオを容赦なく叱ったり、抱きしめる姿を見るたび、自分の存在に不安を覚えた。
 自分はどこにいるべきなのか、考えても仕方のない事で悩む事もあった。
 
 けれど、ひと目で気持ちを奪われた、最愛の女性と家族になれる日は近い。
 自分が生まれた意味はクラリーチェとの幸せな未来にあるのだと、カルロの心は明るい。

「単純なのは、テオだけじゃないな」

 カルロは今すぐランナケルドに行き、誰に遠慮する事なく自分の家族だと言えるクラリーチェを抱きしめたくてたまらなかった。




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