寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
ランナケルドから流れて来る水が田畑に満ち、それによって大きく変わった生活に人々が慣れた夏の日。
ミノワスターでは夜明けとともに盛大に花火が打ち上げられた。
子供の頃から政務に携わり、ミノワスターの発展と国民の幸せのために力を尽くしてきたカルロが、いよいよ結婚する日を迎えたのだ。
花火の華やかな輝きと大きな音は、大国ミノワスターの威信を示す祝砲ともいえる。
数日前にはミノワスターの王族を抜ける儀式を終え、正式にテオが新しい王太子としての立場を引き継いだ。
すでに公務に就き、口うるさい王族やカルロを慕っていた貴族たちがその力を認めるほどの手腕を発揮し始めているテオは、最近では「かわいい子犬の振りをしていた狼」と呼ばれている。
掴みどころのない、そして王位にも公務にも興味のない頼りない王子だと思われていたが、実はやり手の策略家ではないかと、言われているのだ。
まさにその通りのテオの真の姿に、セレナも騙されていたなと感じているのだが、だからといってテオを嫌いになるわけでなく、逆にもっと好きになっている。
十歳の頃からその背中を追いかけ、結婚もしたのだからそろそろ恋心が落ち着いてもいいのだが、とことんセレナに優しく甘やかすテオに、ときめきっぱなしだ。
今も正装に身を包み、きりりとした姿で立つ夫、テオの姿に惚れ惚れしながら、セレナはため息をついた。