寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「どうした? 俺のこの姿に惚れ直したか?」
「え、どうしてわかったの? あ、いえ、ちがう……じゃなくて、まあ、格好いいんだけど」
昨晩、ミノワスターの国王夫妻とテオと共にランナケルドに到着したセレナは、父と母、そしてクラリーチェに温かく出迎えられた。
周辺各国から続々と到着する王族や貴族の出迎えをしていたクラリーチェは、幸せそのものの笑顔を見せていた。
ふっくらした顔を見れば食事もしっかりとれているようで、肌もつやつや綺麗だ。
妹だとはいえ、他国に嫁いでしまえば客人のひとりであるセレナは、クラリーチェとゆっくりと話せず、父と母である国王夫妻とも挨拶するだけで終わった。
それどころかクラリーチェの世話をしているアメリアも忙しそうで、会える事を楽しみにしていたというのに声をかけることもできなかった。
クラリーチェが疲れていないかと遠目から気遣い、飲み物を手渡したり椅子を用意して休ませたりと、アメリアの目は絶えずクラリーチェに向けられていた。
一度目が合った時には、変わらぬ笑顔を向けられたが、だからといってアメリアがセレナのもとに来てくれるわけでもない。
わかっていた事だとはいえ、ランナケルドには自分を待つ人はもういない。
セレナを育て上げたと言っても言い過ぎではないアメリアでさえ、クラリーチェの側にいるのだ、ランナケルドにはもう、自分の居場所はないのだと改めて実感し、セレナは肩を落とした。
その様子を傍らで見守っていたテオは、セレナが泣くのではないかとヒヤヒヤしていたが、セレナはぐっと表情を引き締めただけで泣くことはなかった。
強くあろうとする彼女の決意を感じ、テオは彼女に寄り添うだけで何も言わずにいた。
そしてひと晩をランナケルドの王宮奥の客室で過ごしたふたりは、早起きをして結婚式に出席する準備をしていた。
「格好いいなんて言われて、そんなに見つめられると、今日の主役は俺だと錯覚するんだけど」
セレナの顔を覗き込み、テオはからかうような声で笑った。
着替えを終えたテオに見とれていたセレナは、慌てて視線を下げた。
ミノワスターの正装は濃紺に銀糸の刺繍が施されたもので、背が高く引き締まった体のテオによく似合っている。
セレナも肩から胸元が大きく開いた濃紺のドレスを着ているが、ふんだんにレースが使われ、本人が照れるほど愛らしい。