寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
 袖と裾には細かい刺繍が施されていて、その精巧さを見れば、かなりの時間をかけたものだとわかる。

「俺も、惚れ直したぞ」

 テオは我慢できないとでもいうようにセレナの体を抱きしめた。
 ぱふっとテオの胸に体を弾ませたセレナは、相変わらず履きなれないハイヒールのせいでよろけ、思わずテオにしがみついた。
 慌てて顔を上げれば、ここでもハイヒールのおかげで普段よりもテオの顔が近く、あわわと口ごもった。
 顔を赤くし、もぞもぞしているセレナが愛しくて、テオは頬を緩めて見つめていたが、背後に控えるラーラの視線を感じ、慌てて表情を引き締めた。
 そうだ、ここはランナケルドだ。
 ミノワスターの自分たちの部屋ではない事をようやく思いだした。

「このサファイアは王家代々のものだな」

 声色を調え、テオはセレナの首に輝くサファイアのペンダントに触れた。
 かなりの重みを感じる大きな石は、熟練した腕を持つ職人の手によってキレイにカットされ、キラキラとまばゆい光を放っている。
 これはミノワスター建国以来、王妃となる女性が身に着けるもので、王太子妃が誕生した時、王妃から譲られる。
 慣例にならい、テオが王太子に即位した日にロザリー王妃からセレナに譲られた。

「まだまだ私には似合わないけど……素敵ね」

 濃紺のドレスに映える紫の輝きにセレナは気おくれしているが、整った容姿に加え、乗馬で引き締まった体は姿勢が良く、その立ち姿は侍女たちも見とれるほどだ。
 決してサファイアの輝きに負けていないのだが、セレナ自身、まだまだ自分に自信が持てず、今も頼るような視線をテオに向けている。

「セレナ……サファイアよりドレスより、ずっと綺麗だ」

 テオはセレナの美しさにぼんやりと呟いた。

「そんな、お世辞は結構です。自分の力不足は自分が一番よくわかっています。それに、お姉様のあの美しさを見れば、誰だってお姉様の方が……。いえ、私は私でこのサファイアの重みにふさわしい王妃になれるように頑張ります」
 
 相変わらず自分を卑下する言葉を口にするセレナに、テオは苦笑したが、それでもその声はこれまでよりも力強く、前向きだ。
 何かあったのだろうかと思っていると、セレナはゆっくりと言葉を続けた。

「このサファイアを下さった時、王妃様がおっしゃって下さったんです」
「……なんて言ったんだ?」
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