寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「それでも、陛下も王妃様もセレナ様を大切に想ってらっしゃいますよ。王族の一員として立派にお役目を果たしておられるセレナ様に感謝し、家族の一員としてセレナ様のご苦労を心配しておられます。それはセレナ様だからです。子供の頃からミノワスターの王太子妃になるよう決められて……そのお相手は変わりましたけど。一生懸命努力されるお姿を陛下も王妃様ももちろん国民もみな知っております。王妃様同様、私もそのサファイアが、他の誰でもなくセレナ様に贈られた事を嬉しく思います」
 
 口早にそう言ったラーラの声は泣いているのか少し震えていた。
 ミノワスターに嫁いで以来、王太子妃にふさわしくあれとばかりにストイックに勉強し、努力していたセレナの姿を思い出していたのだ。
 王妃がセレナを気に入り、サファイアを贈る際に口にした格別な言葉はセレナ本人だけでなく、ラーラをはじめ近くに控えていた女官や侍女たちの心をも温かくした。
 水路と引き換えにカルロがランナケルドに行く事になり、ミノワスターを支えていくのは頼りがいのないテオ王子。
 結婚後のセレナの苦労は想像に難くなく、もともと人気があったセレナを守ろうとする国民の動きもあったほどだ。
 水資源のためだとはいえ、その選択は正しかったのかと国民の誰もが思ったが、それでもやはり水不足に苦しんだ過去を思い出すたび仕方がなかったと諦めていた。
 ところが、テオが公務に就いてしばらくすると、子犬ではなく狼だったと国中に噂がたち、ひとまず国民の間に安堵が広がった。
 セレナを溺愛しているとの噂もあっという間に広がり、国民たちはおおいに喜んだ。
 そして、王妃からの愛情深い言葉。
 
 テオは再びセレナの胸の輝きを手に取った。
 ミノワスターの永い歴史を知っているこの輝きの中には、幾人もの王妃たちの喜びも苦しみも込められている。
 決して幸せな時間ばかりを見てきたわけではないはずだ。
 セレナが背負う大国の王妃という重圧を考えれば、彼女が流す涙を受け止める事もあるだろう。
 ミノワスターに嫁いだ事を後悔することもあるかもしれないが、やはりこのサファイアをセレナに贈ることができて良かったと、テオは思う。

「このサファイアを身に着けたセレナの隣にいるのは俺だと、決めていたんだ」

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