寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
ジェラルドはテオの言葉に力強く頷き、言葉を続ける。
「国民の幸せを願う気持ちに嘘はないが、同じように娘の幸せも願っているんだ。なんの憂いもなく日々穏やかに、そして晴れやかな気持ちで暮らせるように、親なら誰もが願う。国王とはいえ、親だからな……。もちろん、その気持ちを優先させられず、国のために娘の感情を受け流す事も多いが」
苦しい過去を思い出したのか、ジェラルドは眉を寄せ、口元を引き締めた。
そして、その想いを振り切るように話を続ける。
「ランナケルドの川からミノワスターに水路を広げたのは、ただ娘の幸せを考えての事だ。その判断が王として正しくないのかもしれないが、そのせいで国民たちの暮らしに不便や不安が生じないよう、万全の体制は整えているから安心しろ……あ、いや、安心して下さいませ」
ジェラルドの言葉ひとつひとつ、そして瞳の揺れを隠そうとする不安定さ。
セレナはジェラルドをまっすぐに見ながらそれらを受け止めたが、「娘の幸せのため」と、はっきりと口にしたジェラルドの想いの強さに触れ、何も言葉にできなかった。
それでも、はっきりとわかったことがある。
それは、自分は父と母に愛されているという事だ。
自国の平和を壊すかもしれない事を承知の上でミノワスターに水路を広げたのは、セレナへの愛によるものだった。
セレナがミノワスターで苦労をしないように、水路を広げる決断をしたのだ。
水資源が豊かなランナケルドの暮らしと違い、慢性的な水不足に悩んでいるミノワスター。
王太子妃といえど、その暮らしには我慢も多いはず。
娘の幸せを願っていると口にしたジェラルドの視線はまっすぐセレナに向けられていた。
はっきりとセレナの幸せを願っていると言わなかったのは、今更セレナに気を遣わせたくないからだろう。
娘のためと曖昧に言えば、クラリーチェを支えてもらうためにカルロを迎える交換条件だと、考えられなくもない。
というより、セレナも最初はそう思っていた。