寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
クラリーチェとカルロと三人で長い時間をかけて進めてきた計画では、ジェラルドはカルロを王配として迎えるため、水路を広げる事を渋々承知するだろうと予想していた。
しかし、ジェラルドはあっさりと受け入れた。
国を守るための大切な切り札だというのに、よっぽどクラリーチェを心配しているのかと、その親バカ加減に呆れたが、その後あらゆる取り決めをし、書面でその内容を残す段となった時。
『セレナがミノワスターで暮らし始めるまでに、工事を完了させて欲しい。娘には一日たりとも苦労をさせたくない』
それだけは譲れないとでもいうように、ジェラルドは迫った。
それまでジェラルドのセレナへの愛情を疑っていたテオは、その考えを改めた。
国王という立場が、ジェラルドのセレナへの愛情をややこしくさせていたのだと、わかったのだ。
きっと、セレナへの愛情を素直に口にできる時は過ぎてしまったのだろう。
長い間すれ違っていた親子関係を修復する機会がないままセレナは大人になり、じきにミノワスターに嫁いでしまう。
その事に焦り、セレナのために何ができるかを考え、水路の延長を決断したに違いない。
この先、セレナと両親の心が寄り添い、家族として屈託のない笑顔で語り合える日がくればいいと、テオは願っている。
「セレナ、大丈夫か?」
互いに口下手なのか、見つめ合ったまま口を開こうとしないセレナとジェラルドをテオは見やる。
すると、セレナはハッとしたようにピクリと体を跳ねさせ、視線をテオに向けた。
「もちろん、大丈夫。……あ、そろそろ、お姉様たちがバルコニーから戻ってくる頃ね」
セレナは気持ちを切り替えるようにそう言って、ジェラルドに再び頭を下げた。
「私は、幸せです。お父様もお母様も、幸せにお過ごしください」