寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
セレナは優しい想いで呟いた。
ジェラルドは、セレナの言葉に喜びながらも、胸元のサファイアを何度も指先で触れるセレナの姿に寂しさを感じた。
これまでそのサファイアがロザリー王妃の胸元で輝いていた事をよく覚えている。
ロザリー王妃によく似合い、彼女の気品をさらに高めていたそれは、代々王太子妃に譲られるものだと、聞いていた。
ジェラルドとサーヤを目の前にし、落ち着かない気持ちを鎮めるためにサファイアに指先で触れるセレナ。
時おり、少し離れた場所にいるロザリー王妃と視線を交わしながらサファイアに触れ、安心している。
セレナにとって、自分を受け入れ愛情を返してくれるロザリーから譲られたそれは、新しい家族との絆を表している。
ジェラルドとサーヤへの遠慮がちな態度とは違う、信頼し合えた者同士が交わせる視線のやり取りに、ジェラルドは切なさと嫉妬を覚え、同時に安堵の息を吐いた。
父と母から得られなかった愛情と安らぎを、新しい場所で新しい家族から受け取り、幸せな日々を送って欲しい。
「セレナ……」
サーヤがセレナに一歩近づき、微かに震える指先をセレナの頬に添えた。
「テオ殿下に精一杯尽くして、ミノワスターのよき王太子妃となりなさい。あなたなら大丈夫。アメリアが愛情を込めて育ててくれたのだから、自信を持ちなさい」
「お母様……」
サーヤの言葉は切なかったが、それを否定することはできない。
アメリアに育てられたのは事実なのだ。
そして、サーヤが悔やんでいるのも、事実なのだろう。
サーヤの頬を零れ落ちた涙がそれを教えてくれる。
セレナも目の奥が熱くなり、足元が震えた。
ジェラルドもサーヤ同様その目は赤い。
ようやく家族として気持ちが通じ合えたこの時、せっかくだから涙を流すのではなく、三人で笑い合いたいと、セレナは無理矢理笑顔を作った。