寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
◇ エピローグ
結婚式、そしてその後の晩餐会が無事に終わった翌日、セレナとテオはミノワスターへ出発するまでのほんのわずかな時間、離宮近くの川に来ていた。
たくさんの木々が生い茂る涼しい森の中を豊かな水がゆっくりと流れていく。
鳥の鳴き声が聞こえ、カサカサと音がするかと思えばリスが可愛い顔をちらりと見せては逃げていく。
セレナは子供の頃を思い出し、ドレスの裾を両手で持ち上げ追いかけようとしたが、傍らのテオの笑い声にハッと我に返った。
「あ……だ、大丈夫。追いかけるなんて子供っぽいこと、しません……わよ?」
そう言って、ドレスを持つ手を広げ、慌てて裾を整えた。
「えっと、その。いい天気でよかったですね」
ぎこちない笑顔と声で、セレナは川面に視線を向けた。
テオと結婚して以来、セレナは王太子妃としてふさわしい態度を心がけ、周囲から厳しい意見を言われないよう気を張っていたが、懐かしい場所に来て気持ちが緩んでいる。
気持ちは子供の頃に戻ったようだ。
それに、この場所はセレナにとって思い出深い、特別な場所なのだ。
「えっと、そろそろサンドイッチを食べましょうか」
この場の空気を変えるようなセレナの声に、テオは肩をすくめた。
「朝からオレをベッドにひとり残してアメリアと一緒に楽しく作ってくれたサンドイッチか?」
「はい。そうです。久しぶりに離宮の調理場で過ごせて楽しかったですよ」
弾む声を上げたセレナに、テオは眉を寄せた。
朝、目が覚めたと同時に無意識に伸ばした手の先に、セレナはいなかった。
驚いて目を開けると、ベッドには自分ひとりしかいなくて慌てて跳び起きた。
明け方までセレナを抱き、気絶するまで彼女の体を貪ったというのに、いつの間に起きたんだと、不安を覚えた。
セレナにとって苦しい思い出が多い子供時代。
うまく心が通じ合えていなかった国王夫妻との対面で、セレナが泣くのではないかとテオは気をもんでいたが、どうにか親子としての絆をつなぎ合わせるきっかけを掴んだようだった。
それでも、晩餐会の後も落ち着かないセレナの気持ちを自分に向けたくて、存分に抱きつぶしたのだが。
セレナはテオよりも先に起きだしたようだった。