寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
 眠れなかったのだろうかと、テオが不安を覚えていると、明るい表情のセレナが部屋に戻ってきた。

『あ、良かった。パンが焼きあがったので、起こしにきたんです。アメリアと一緒に作った焼きたてパンは絶品です。早く着替えて一緒に食べましょう』

 両手を胸の前で合わせ、テオを誘うセレナの声は明るく元気だった。
 テオが初めて彼女に会った時のように、屈託なく、幸せそうで美しかった。
 セレナが自ら着替えを手伝ってくれ、テオは普段以上に機嫌よく朝食を終えることができた。
 セレナが側にいれば、なんだっておいしく、機嫌もいいのだ。
 セレナはテオの想いに気づくことなく、大きなシートを広げてバスケットからサンドイッチや飲み物を取り出し並べていく。

「このパンはアメリアに手伝ってもらわずに私ひとりで全部作ったんです。テオは甘めのパンが好きですよね。だから贅沢をしてお砂糖をちょっと多めに使いました」

 サンドイッチだけでなく、セレナが用意してくれたクロワッサンやキッシュがテオの目の前に並ぶ。
 どれもテオの好物ばかりだ。

「そういえばこの間も、北の領土の視察に行く時にクロワッサンを作ってくれたな」
「なかなかの出来栄えだったでしょ? 料理長がおいしいバターを分けてくださったので腕によりをかけて焼いたんですよ。国王陛下と王妃様にも褒められました」

 両手でこぶしを作り、誇らしげな表情を見せたセレナに、テオは目を細めた。
 艶やかな髪は輝き、頬はほんのり赤い。
 明るい日差しに包まれ、楽しそうに笑うセレナを、テオは愛しく思う。

「これ、かぶってろ」

 テオはシートの上にあった帽子を手に取ると、セレナの頭に置いた。

「今日は日差しが強いから、日焼けするぞ」
「ありがとうございます。でも、今まで日焼けなんて気にしなかったので今更です」

 セレナはふふっと笑って肩をすくめた。
 騎士団に交じっていた頃は、日焼けどころか日々体中に増えていく傷にも無頓着だったのだ。
 木々の合間からの柔らかな日差しなんて、どうってことない。

「でも、この帽子はお気に入りなので、かぶっておきます」

 その帽子は、以前ランナケルドの市でテオがセレナに買ってくれたもので、その日以来、セレナは大切に使っている。
 セレナは帽子をキレイにかぶり直すと、コップに水を注ぎテオに差し出した。
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