寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「せっかくなのでワインを持ってきたかったんですけど、アメリアが帰りの馬車に揺られて悪酔いしちゃだめだからって持たせてくれなかったんです」

 顔をしかめたセレナに、テオはくくっと笑った。

「たしかにゆっくりとワインでも飲みたいな。だけど、ひと口飲んだだけで顔を真っ赤にして眠ってしまうセレナには、飲ませられないな」

「な……そんなこと、ない……です」

 セレナはしゅん、と肩を落とし、次第に声が小さくなる。
 ジェラルドとサーヤから贈られたワインがきっかけで、ワインを飲む機会を少しずつ増やしているのだが、ひと口ふた口飲んだだけで体がふわふわしてきて眠くなるのだ。
 それだけでなく、酔いの力はセレナの心を解放するのか、ついついテオに甘えてしまうのだ。
 ベッドの中で望まれるのも嬉しくて、素直にテオに応えては、翌日恥ずかしすぎて視線を合わせられない。
 酔って記憶が飛んでしまえばいいのにと思う反面、セレナを苦しげな表情で抱くテオの姿や声は忘れたくない。
 セレナの心は複雑だ。
 テオはセレナに身体を寄せ、あっという間に抱き寄せた。
 シートの上に足を伸ばしているテオに向き合うように座ったセレナは、テオの顔があまりにも近すぎて目を逸らした。

「ん? 水しか飲んでないのに顔が真っ赤だぞ?」

 テオはからかうようにそう言って、セレナの額に口づけた。

「ワインなら、城に帰ってから飲ませてやるから安心しろ」
「わ、私は別にワインを飲みたいわけじゃなくて、ただ、テオが飲みたいのではないかと……きゃっ、な、何を」

 テオはセレナの胸元にあるリボンを唇で引いてするりとほどいた。
 縦に五つ並んだリボンの上から三つを慣れたようにほどくと、目の前に現れたキレイな肌に顔を寄せた。

「テオ、殿下、やめてください、誰かに見られたら」
「見られてもいいだろ。俺たち、夫婦なんだから」

 セレナの焦る声にかまうことなく、テオはセレナの胸元にキスを続ける。

「夫婦ですけど……そういう問題じゃありません」

 恥ずかしくてテオから逃げようと体をそらすセレナを強く抱きしめ、テオは鎖骨あたりに次々と赤い花を咲かせていく。
 セレナは体をつっぱって逃げようとするが、テオの力に敵うわけがなく、次第に体から力が抜けていく。
 本当は、セレナもテオに触れられて嬉しいのだ。
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