寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
 自分がプレゼントした帽子を大切にしていたと知って、思わず頬が緩む。
 たしかにセレナによく似合っていたし、自分が選んだものをセレナが身に着けるというのはいい気分だ。

「帽子だけでなく、靴でもドレスでも、欲しいものがあれば買っていいんだぞ?」
「……でも、あれはお気に入りだったのに」

 テオはぐずぐずと涙声で呟くセレナの背中を何度も撫でた。
 リズムよく動く指先が、セレナの心を落ち着かせていく。
 テオが言うように、あのまま川に落ちれば、泳ぎが苦手なセレナは溺れていたかもしれない。
 想像すると怖くて、セレナの体は小さく震えた。

「ごめんなさい。でも、あの帽子は特別だったの」

 しゅん、と落ち込むセレナの心細い声に、こんな状況だというのにテオの心はどんどん明るくなる。
 なんてかわいいんだ。
 テオは腕の中で涙を流すセレナを抱きしめたまま、ゆっくりと起き上がった。

「泣くな。これから幾らでもセレナの欲しいものを買ってやる。あの帽子はセレナに似合っていたから俺も残念だけど、また一緒に帽子を選ぶ楽しみができたって事だろ?」
「ほんと? また、一緒に買い物に行けるの?」

 急に明るい声を上げたセレナに、テオは苦笑しつつ頷いた。
 セレナの口調は王太子妃という立場を意識した堅苦しいものではなく、これまでテオと一緒に過ごしていた時のセレナの話し方だ。
 子供の頃、テオと顔を合わせるたびに駆け寄りニコニコ笑っていたセレナが戻ってきたようだ。
 川に落ちそうになり動揺したせいで、素の自分が出ていることにも気づいていない。

「だったら、もちろん帽子は選んで欲しいけど、テオとお揃いで何か買いたいな。ミノワスターの職人さんが作った何か……」
「だったら、椅子なんてどうだ? ミノワスターの職人が作る家具は質の高さで有名だから、お揃いの椅子をバルコニーに並べて夜空を眺めよう」
「夜空か……すごく素敵だけど、テオがそんなロマンティックな事を言うなんてびっくり」

 セレナは大げさに肩をすくめ、くすくす笑う。

「失礼だな。俺だって惚れた女がうっとりするような言葉のひとつやふたつ、いつでも言えるぞ」

 テオはセレナの頭を軽く小突くと、そのまま軽くキスを落とした。
 途端に真っ赤になるセレナを見て、心が温かくなる。

「そう言えば、この場所ってたしか」
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